1. 知財部アウトソーシングとは何か
知財部アウトソーシングとは、企業の知的財産部門が通常担う機能──発明の発掘と出願判断、特許事務所との折衝、営業秘密の管理体制、契約の知財条項、知財戦略の立案、経営層への報告──の全部または一部を、外部の専門家に委ねる形態を指します。
背景にあるのは「知財担当者の不在」という構造的な問題です。シリーズAを終えた技術スタートアップや、売上100〜1,000億円規模の中堅企業では、知財に関わる判断が年間数十件規模で発生する一方、専任者を雇える規模にはまだ達していないことが多い。CEOやCTOが片手間で判断するか、顧問の特許事務所に出願だけを依頼する状態が続きます。
特許庁のスタートアップ支援ポータル(IP BASE)でも、会社の成長に伴って知財相談が増えてきた段階での選択肢として「顧問契約」「週1日のインハウス」「CIPO(最高知財責任者)の設置」が挙げられています。知財部アウトソーシングは、正社員を雇う前の段階で、この空白を埋めるための選択肢です。
2. 提供形態の4類型と向き不向き
公開されている各社のサービスを整理すると、提供形態は次の4つに大別できます。
| 類型 | 提供主体 | 主な内容 | 向いている企業 | 限界 |
|---|---|---|---|---|
| ① 特許事務所の顧問型 | 特許事務所 | 出願実務を軸に、随時の相談を顧問料で受ける。出願件数が多いほど実質的な単価が下がる | 出願が年数件以上あり、まず権利取得を固めたい企業 | 出願を増やす方向にインセンティブが働きやすい。ただし知財戦略会議への参画を標準で含める事務所もあり、「事務所だから経営に入らない」とは限らない |
| ② コンサルティング型・月額顧問 | 独立系コンサル・個人 | 月額固定で一定時間の稼働。経営会議への陪席、知財ロードマップ、契約条項レビュー等。出願実務は外部事務所へ | 経営判断に知財を組み込みたいが、専任者を雇うには早い企業 | 提供者が個人の場合、継続性・バックアップ体制の確認が必要 |
| ③ 常駐・出向型 | コンサル会社・人材会社 | 週1〜数日の常駐。社内に席を持ち、日常業務を担う | 発明の数が多く、日々の実務量が確保できる企業 | 月額40〜100万円規模になりやすく、正社員採用との費用差が小さくなる |
| ④ スポット・プロジェクト型 | 各種 | 知財DD、ポートフォリオ診断、ロードマップ策定など、期限と成果物を定めた単発契約 | 資金調達・M&A・上場準備など、特定イベントに対応したい企業 | 継続的な伴走にはならない。イベント後に知財判断が再び空白になる |
実務上は、①と②を組み合わせる形が多く見られます。出願実務は特許事務所に任せ、経営判断の側は月額顧問で補う構成です。この分業には利点があります。出願件数で報酬が決まる事務所と、戦略助言で報酬が決まる顧問とで、利害の方向が分かれるため、「出願すべきか、しないべきか」の判断に中立性が生まれます。
なお、②のうち経営会議に継続的に陪席し、最高知財責任者に相当する機能を部分的に担う形態は、海外のフラクショナルCFO・CMOと同じ構造から「フラクショナル型のCIPO」と呼ばれることがあります。この形態の必要性と定義については、別稿の論考で詳述しています。
3. 費用相場 ── 公開情報からの整理
2026年9月時点で公開されている各社の料金表および比較記事から、相場を整理します。個別の事業者名と金額の対応は、各社の最新の料金表をご確認ください。ここでは水準のみを示します。
| 形態 | 月額の目安 | 稼働時間の目安 | 時間単価換算 |
|---|---|---|---|
| タイムチャージ(都度契約) | — | — | 2.2万円/時間前後 |
| 月額固定・小規模 | 3〜6.5万円 | 月1.5〜3時間 | 1.7〜2.6万円/時間 |
| 月額固定・標準(経営会議参加を含む例あり) | 10万円前後〜 | 月6.5時間 | 1.5万円/時間〜 |
| 月額固定・中堅向け(経営会議参画あり) | 20万円前後〜 | 月8〜10時間 | 2.0〜2.5万円/時間 |
| 大企業向け・常駐型 | 40万円〜 | 月16時間〜 | 2.5万円/時間前後 |
当社の価格はどこに位置するか
公平を期して明記します。当社の月額顧問の入口プラン(エントリー)は月額15万円(稼働目安8時間)で、時間単価に換算すると約1.9万円/時間です。上の表で言えば相場の中位にあり、同程度の時間数で比べれば、10万円前後の事業者より約2割高い水準です。
さらに率直に書きます。当社のエントリープランには経営会議への参加が含まれていません(経営会議参加はスタンダード・月額30万円からです)。一方、月10万円前後で経営会議参加を標準に含める事業者があります。つまり「経営会議に入ってくれる外部の知財責任者を月いくらで」という比較では、当社は最も高い部類に入ります。
それでも当社を選ぶ理由があるとすれば、経営会議への参加そのものではなく、その先にあります。当社は知財を損益計算書・貸借対照表・IR開示の言語に翻訳すること──IP-P&L、知財財務三表、CGC・知財無形資産ガバナンスガイドラインへの開示対応──を中核に置いており、この領域を正面から扱う事業者は多くありません。価格や経営会議参加の有無で比較するなら、当社を選ぶ理由はありません。財務・IR・開示まで接続した知財運営を求める場合に、検討対象になります。
4. 選定時に確認すべき8項目
価格表に書かれていないことが、契約後の満足度を決めます。発注前に次の8点を確認することを勧めます。
- 経営会議に入るか、入るならどのプランからか。「相談に応じる」と「経営会議に陪席して議題を提示する」は別の役割です。多くの事業者が経営会議参加を提供していますが、含まれるプランと料金は事業者ごとに大きく異なります(当社はスタンダードから)。
- 出願実務と分離されているか。出願で報酬を得る提供者に「出願すべきか」を聞くと、構造上、出願を勧める方向に力が働きます。助言と実務の報酬が分かれているかを見てください。
- 稼働時間の定義。「月8時間」が保証なのか目安なのか、未消化の繰越・返金はあるのか、超過時の扱いはどうなるのか。ここが曖昧だと月次の検収で必ず揉めます。
- 最低契約期間と解約条件。知財は短期で成果が出る領域ではないため、3ヶ月程度の最低期間は妥当です。一方、1年縛りは慎重に。
- 成果の定義。「7領域をカバー」は活動であって成果ではありません。契約時に、半年後に何がどう変わっていれば成功かを3〜5個合意しておくと、更新判断がしやすくなります。
- 継続性とバックアップ。提供者が個人の場合、病気や繁忙期にどうなるか。警告状への回答期限や係争の初動は日単位で動くため、代替手段の有無を確認してください。
- 責任範囲。助言の誤りで損害が生じた場合の賠償上限(多くは受領報酬額)と、専門業務賠償責任保険の有無。高額の評価業務を依頼する場合は特に重要です。
- 財務・IR・開示まで接続できるか。知財戦略の立案で止まるのか、損益・企業価値・開示文書への反映まで扱えるのか。上場準備や投資家対話を控えている場合は、ここで事業者の射程が分かれます。
5. 公的支援との使い分け
費用をかける前に、無料で使える公的支援を把握しておく価値があります。INPITの知財総合支援窓口は全47都道府県に設置され、無料で相談できます。特許庁のIP BASEはスタートアップ向けに専門家の選び方や事例を公開しています。日本商工会議所も知財支援プラットフォームを運営しています。
これらは「何から手をつければよいか」を整理する入口として有効です。一方で、継続的に経営判断に関与する役割や、個別企業の事業戦略に踏み込んだ助言は、公的窓口の射程外です。公的支援で全体像を掴み、継続的な関与が必要と判断した段階で有償のアウトソーシングを検討する、という順序が費用対効果の面では合理的です。
6. 当社の提供内容
Aegis Nova IP Consulting は、上記②の形態を提供しています。初回相談(30分・無料)と初回IP診断(10万円・6ヶ月以内の成約で全額相殺)を経て、月額顧問(15万円〜・3プラン・最低3ヶ月)に進む構成です。出願実務は行わず、提携する特許事務所をご紹介します。紹介に際して紹介料は受領しません。